2021/03/06

研究室に配属される学生に望むこと

専攻科生は特別研究論文の提出が終了したものの,(このブログの執筆開始日=2月末の時点で)5年生はまさに提出締切が週明けという現在,4年生は研究室配属の希望調査の真っ只中,という状況かと思います(途中で執筆を一休みして間が空いたので、このブログのアップは卒論提出完了後となりました).

今日,今から書くことは,縁あって北越の研究室に配属されることになった学生の皆さんに期待すること,および”これは絶対に守ってほしい”ということがメインとなっていますが,例えば1年生や2年生のタイミングで僕の研究室での研究内容に興味を持ち,「5年になったら配属されたいなぁ」と思っている学生の皆さんにとって留意しておいてほしいことも含んでいます.あくまで北越個人の期待や要望なので,研究室によっては当てはまらない条件があるかもしれませんが,恐らく,大なり小なりどの研究室でも必要であったり,そのくらいはおさえておいて欲しいという要素かと思います.

1.報告・相談は頻繁に

今も昔も,研究に限らずあらゆる活動の大前提であるにも関わらず,多くの学生が十分に(もしくは全く)できないのがこれ.そして,個人的な感覚として,この報告・相談が”最も必要な時に限って全くできない/できなくなる”という学生が多いのも悩ましいところ.
卒研や特研などの研究に関していうと,特に5年生は研究活動自体が初めての経験であり,本人が「進んでいる」と思っていても,実は盛大に間違えていたり,猛烈に遠回りしていたりする場合が非常に多いです.奇跡的に(?)順調に進んでいる(ように見えた)としても,研究を進めるにあたっては様々な”不測の事態”が起こるので,そういった状況が極力発生しないように備えながら進めていく,という意味でも,指導教員と学生は密に連絡をとっておく必要があります(そもそも,”答えが分かっている研究なんて研究とは言わない”わけで,教員も当該分野についての基本知識があったとしても,完全に答えが分かっているような研究を対象にすることはありません・・・というか,そんな研究つまらないのでやってもしょうがないですね).
研究に従事する学生の状況が分からなければこちらからもアドバイスのしようがないので,実際にどのような状況になっていようとも,手を出せなくなります.当然,研究活動に手を出せない=責任を持てない,ということになるので,報告・相談がない状況のまま,結果として卒研が終わりませんでした,となっても教員としてはアドバイスもレスキューもできません(というか,そのような学生であればレスキューしたいとは思えないのが人情でしょう・・・仕事ですからレスキューしますが).

2.研究テーマの選択は慎重に

大前提として,北越に限らずどの研究室でも”今,取り組んでいる研究”というものがありますし,当然その中には”やって欲しい(やってもらわないと困る)研究”といったテーマが含まれている可能性があります.
例えば,高専に入学して(場合によっては入学前から),ある教員の研究に興味を持ち,ずっとその希望を持ったまま当該教員の研究室に配属され,いざ当該のテーマを希望してみたら,「そのテーマはもう全部やり尽くしたから、今はやっていないよ」とか「(成果の有無に関わらず)そのテーマは今のトレンドに合わないので,○年前にプロジェクトは終了したよ」といった回答をもらって愕然とする・・・といったことが少なからずあります.
特に工学系の場合,その分野の特徴としても,応用研究が多いということからも,社会の要求という側面が大きくなります(要は、やることで社会に役立つ(可能性がある)こと,今後重要になる(可能性がある)こと,について重点的に取り組む傾向が強い).加えて,研究室に所属する学生の数や,教員が一度に取り扱える研究テーマの数にも限りがありますので,研究費を獲得していて,今年度進めなければいけない研究テーマに従事してくれる学生が一人もいない、ということは避けなければいけませんし,逆に,一人いれば十分なテーマに3名も4名も希望者がいる,という状況もある意味悩ましいことになります.
ある教員の研究分野を考えた場合,応用先はそれぞれのテーマで限定されるでしょうが、基盤となる理論や技術(北越の場合,機械学習やエージェントシステム,確率モデルに関する諸々)は共通していることが普通なので,「このテーマ以外はあり得ない」と言われてしまうと非常に困りますし(おおもとの理論は一緒 or 類似しているので,理論面でやりたいことはアプリケーションに関わらず大体の場合はできますし),実際,当該テーマ=同じアプリケーションをネタにしたテーマにはどうやっても従事させられない,という状況が比較的よく起こるということは意識しておく必要があります.

3.勉強の成績と研究能力に、正の相関は必ずしもない

自分はこれまで高専の勉強を頑張ってきたし成績もオールAだから,当然卒業研究も問題なくまとめられる(良い成果を出せる),と考えるのは時期尚早です.ある意味,いわゆる学校の勉強と研究活動は,必要とされる資質がかなり違います(これはもしかすると,学校教育の問題かもしれませんが).
例えば学校の勉強では,覚えるべきもの(歴史上の出来事や公式など)を覚えて,繰り返し問題を解いたりすれば成績はついてくるかもしれませんが,研究の場合,基盤技術についての知識を完全に覚えていたからといって良い成果が得られるとも限りません.そもそも,指導教員さえが答えを知らない状況で研究はスタートする(繰り返しになりますが,答えが分かっているテーマは原則,研究にならない)ので,当初見込んでいた予測が外れていたり,実験をやってみたけれど失敗した,なんていうことはザラです.むしろそれを受け入れて,その結果を踏まえてどうやって軌道修正しながら目的に向けて進めていくのかが重要です.ざっくりとしてタイムスケジュールはありますが,締切らしい締切と言えば,中間発表や最終発表の資料提出,卒業論文の提出締切など限定的で,毎週課題がある一般の授業とも異なります.
学生一人一人で得意分野も違うし,場合によっては経験のない作業を行うことになるので,学生自身もどのくらいの時間で作業が終えられるかわからない,ということもあります.そのような中で,ある種”自分で締切を設定”しながら,状況に応じて”作業内容や,場合によっては締切自体,研究目標自体を修正”せざるを得なくなることもあります.そういった状況を学生一人で解決するのは難しいので,研究経験が豊富な教員がアドバイスすることになりますが,(モロに1.と関係しますが)後戻りできない状況になるまで連絡も報告もなかったり,自分では上手くいっていると勘違いして突き進んだものの,教員に報告したら実は全く違う方向に進んでいた,なんていうある種のギャグに近い状況(とはいえ全く笑えない)も起こります.
教員から指示されたことさえできない,というのは論外ですが,言われたことだけやっていれば良い研究ができるというわけでもありません.レアな確率で,教員の指示通りやって良い成果が挙げられた,という場合もあるかと思いますが,ちょっと考えてみてください.そこに学生自身のアイディアが一切含まれていない卒業研究は,その学生の研究ではなく,むしろ教員の研究ですよね?(卒業)研究というのは,従事する当人の創意工夫や試行錯誤の結果,これまで明らかになっていなかった and/or これまでできていなかったことが明らかになる and/or できるようになることが成果になりますので,そういった点で学生の自主性,主体性が「良い研究を行う」ための条件となります.
では逆に,学校の勉強ができなくても良いのか,というとそうではなくて,研究を進めるに当たっても基本的な知識は授業で学んだことが少なからず含まれますし,自分が知らない知識を素早く入手し自分のものとするためには,いわゆる学校の勉強の手法が非常に有効である場合が多いですから,「自分は研究はできる(と思う).だから学校の勉強は頑張らない」というのはやめてください(そもそも,卒業研究ができる状況まで辿り着けない可能性も低からず出てくるでしょう).

※ 一点補足です.1年間(専攻科は2年間)頑張って研究した結果,予想した成果が出なかったら卒業・修了できない,とは限りません.自身では全く研究を進められず,”何もやってないから成果も出ない”場合には如何ともしがたいですが,いろいろと試行錯誤してうまくいかず,結果的にタイムアップになってしまったという場合,それはある意味では全く失敗でなく,”最終的な成功に向けて,うまくいかなかった事例を収集できた”という成果になります.上述の通り,ある研究の答えが事前に分かっているということは通常あり得ないので,やってみるまでは簡単だと思っていたのに,やってみたらメチャクチャ難しかった,ということも当然あり得ます.難しいのであれば,1年や2年で成果を出すのは難しいということもありますし,成果が出たとしてもそれで研究終了ではなく,成果の中にも課題があったり,課題ばかりのこともあるでしょう.そして,それらを翌年度以降の後輩が引き継ぐ,ということもあります(継続研究等と呼ばれるものは,これらの類の研究です). 


書いていると,昔のことから最近のことまで,研究指導をしてきて苦労してきた記憶がどんどん蘇ってきますが(苦笑),これまでの内容を簡潔にまとめると,
・視野を広く持って(自分はこれしかやりたくない,といったこだわりを捨て)
・指導教員とよく相談してテーマを決め
・研究を進めるに当たっても,セルフジャッジすることなく教員と頻繁にやりとりしながら
・主体性と積極性を持って活動する
のが,最低限”途中で座礁したり遭難したり行方不明になったりすることなく”,研究をゴールまで到達させるための必要条件かと思っています.

では,十分条件は何?という話も出てくるかと思いますが,これについては僕も完璧な答えは持っていないように思います.が,自分が考える「これ」というものはいくつかあります.これを書き始めると恐らく,ブログの文章量が今の5倍くらいになる(論文一本分くらいは書ける)ような気がするので,興味のある人は直接問い合わせてもらえればと思います(北越の研究室に配属された学生さんは,折に触れて豆知識的に触れる機会があるかもしれません).

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