2023/02/27

必ず結果を出す人の伝える技術 ー書き方にも生き方にも応用できますー

 ここ最近よく読んでいる,如何に効率よく必要な情報を入手し,それを必要な時に伝わりやすく出力するか,といったテーマの流れで,今回読んだのは以下の一冊.

必ず結果を出す人の伝える技術 佐々木かをり 著,PHPビジネス新書

この書籍はそのタイトルにもあるとおり,基本的には”伝える=話す”ことに重点を置いた技術にフォーカスして記述されています.ですので当然,話すこと,特に”人の心に響くような,受け取った人が新たなアクションを起こすきっかけになるような”伝え方についてわかりやすく説明してあるのですが,その多くは,同様のアクションを起こすきっかけになるような書き方,もっといえば”表現の仕方”にも繋がるように感じました.
そしてこれまた,いつも僕自身が考えていることとの答え合わせもバッチリできました・・・と書くと偉そうですが,伝えること,表現すること,コミュニケーションをとることを考えれば,僕ならずどのような人でも,ちゃんと考えれば同じところに行き着くはず(と思うんですが,なかなかそこまで考えずに,雑な伝え方をする学生 ーには限らないですが,やっぱり目につくのは学生ですー が多いので,是非気にしてみて欲しいところ).

まずは,そもそも伝えたいことがあった場合,それを誰かに伝える目的をはっきりと認識すること.ただ伝達すると言うだけでなく,それによって相手に何らかのアクションを起こして欲しい(例:論文を書いたら,それ読むことで自身の研究に興味を持って欲しい=他の自分の論文も読んでほしい,ある商品の良さを魅力たっぷりに伝えることで,その商品を自分が使うことを想像して,結果としてその商品をオーダーして欲しい,などなど),と言う目的を理解できていないと,話し方にも書き方にも熱意が伴わず,読者(聴衆)にアクションを引き起こすことは難しいでしょう.
加えて,目的がはっきりしないと,様々な物事を表現するための適切な(具体的な)表現を選ぶことも難しくなります・・・というか,そもそも適切な表現を使いたい,と言う意欲も生まれないかもしれません.

日本ではよく,”起承転結をしっかりと”といったことが,話したり書いたりする際には重要だと言われますが,実のところこれはむしろ日本語に特有の概念で,海外であったり,国内でも我々のような工業系分野の人間であれば,まず”最初に伝えるべきは最も重要なこと”です.そして,起承転結は国語の授業で作文を書いたりする際,見聞きしたことがある人もいるでしょうが,実は,効果的に(口頭で)伝える技術,効率的なコミュニケーション能技術について,小中学校での(もしかすると高校,大学でも)授業で教わることはないかもしれませんね.どのように素晴らしい知識や技術を学んでも,どんな素晴らしい発明や商品開発が実現しても,それを世間一般に伝える技術がないと,その技術が広がったり,多くの人に使ってもらうことは困難,と言う意味で,本来であれば最初に教わるべき技術のはずなのに,日本人はこの辺りのスキルを軽視しているのではないかとさえ思ってしまいます.

本書では,伝え方のもう一つの重要なポイントとして,使ってはいけない言葉(表現),是非使いたい言葉(表現)を挙げています.
詳細は実際に読んでもらうとして概要をまとめると,

  • 自分や相手にとってネガティブな言葉は使わない
  • ネガティブな表現はポジティブな表現に置き換える
  • 元々ポジティブな言葉・表現はどんどん積極的に使う,伝える

といったところです.

加えて,既に記載しましたが改めて,

  • はっきりしない抽象的な表現は使わないように,できる限り具体的な情報,伝える側の意図がはっきりと伝わる表現を使う(表現を変える)
  • 自分から見て,ではなく”伝えたい相手にとって論理的な(筋道の通った)話し方”を意識する

というポイントも挙げられています.

口頭で伝えたいことがある場合はさらに,ノンバーバル(非言語)コミュニケーションも活用しましょうと強調します.ノンバーバルコミュニケーションとは文字通り,言語によらない表現(例:表情,ジェスチャ,声の大きさや高さ,話すスピードや抑揚など)ですが,ここまで活用できるようになるとかなり上級者かもしれません(日本人の場合).著者はこれらに加えて,服装や服の色なども,例えば発表の場に立つ人間が,その場をどのように認識しているかを伝えるためのツールとして使えると述べます.

上記諸々のノウハウは,それこそ論文を書いたり,学会で発表をしたり,(時期的にタイムリーですが)就職や進学での面接に臨む際にも重要な項目です.
論文を書くとき,その目的を認識していない,誰を対象に書いている(話す)のかを分からないまま書く/話す内容を考えているようでは,まともな内容になりませんし,言葉の端々に冗長だったり抽象的な表現が出てくるような文章やプレゼンでは,読者や聴衆を納得させることはできません.面接に除く学生が,いかにも練習不足であることが見え見えな受け答えであったり,そもそも面接に臨む服装でない(御社に採用していただきたいです!と言う意欲の見えない),といった場合も,本人が意図しているかしていないかとは関係なく,受け手にとっては不誠実,不確実で,わざわざ時間をとって読んだり聞いたりしてみたい文章/お話だと思われない(当然,そんな学生を採用したいとは思わない)でしょう.


僕は面接練習の時,ほぼ100%学生に伝えることがあります.それは,

”自分のアピールポイントと,そのポイントを獲得するに至った根拠や経験をペアで(たくさん)キープしておく”

ことが重要だよ,ということです.

面接では,自分をアピールする(売り込む=自分を採用したらあなたの会社は得ですよ,と思わせる)ことが大切ですが,例えば「自分は優秀です」とか「自分はプログラムができます」と”言うだけ”なら誰でもできます.アピールをするからには,その能力はどうやって得たのかとか,どんな経験を経てそのストロングポイントが育まれたのか,実体験や根拠が必要です.
逆に,自分にとって有意義だった経験は何?と聞かれた時に,「○○に参加したことです!」と経験だけ答えても,面接においては何のアピールにもなりません.回答に引き続いて,その体験・経験から自分は何を学んだか(得たか)までを回答することで,これも自分のアピールにつながります.面接では(実際には面接に限らずどのような会話でも),相手からどのように質問されるかは分かりませんので,答えを一言一句暗記するのはむしろ逆効果です.どのような聞かれ方をしても,アピールポイント or 経験が出てきて,その後,残るもう一つ(アピールが先なら,続いてその根拠,経験を先に回答したら,それから何が得られたか)がスムーズに出てくるよう,ペアだけたくさん用意しておくことをお勧めしています.

実はこの方法と類似のノウハウが,”自分の体験にタグ付けしよう”というアドバイスとして,本書にも記載されています.自分が経験した様々な事柄にタグ付け(ある事柄に,その事柄で得られた知見をタグ付けしておく)ができていれば,会話の最中に出てくる様々な話題が出るたび,その話題にタグづけされた自身の経験などをスムーズに引っ張ってくることができる,というもので,これはまさに僕が学生の皆さんに伝えている”アピールポイント-経験・根拠ペアを用意しておく”こととイコールの方法と認識しました.

本書の最後では,ここまで紹介した諸々は全てスキルであり,当然重要なんですが,最も重要なのは話す/書く本人の意欲や意志,誠実さである,という記載があります.これもまさに非常に同意できるポイントです.要は,書くにせよ,話すにせよ,伝えると言うことは,伝えたい人がいる,伝えたいことがあると言うことですから,その内容についての熱意や誠実さがあり,それをより分かりやすく伝えたいという意志があるからこそ,様々なスキルを用いて伝えやすくしたいと思うでしょう?と.
自分で一生懸命に取り組んだ卒業研究なら,自分が熱意を持って取り組んだことを,どうやったら色々な人にわかりやすく伝えられるだろう?と考えるのは当然でしょう,と.
採用してほしい企業の面接に臨むなら,どのように取り組めば,人事担当者に自分の良さを,強みを,限られた時間の中で認識してもらえるだろう?
と考えますよね?ということですよね.

逆に言えば,これらが意識できていない人は,本当にその研究に熱意を持って取り組んできたのか?本当に我が社に入りたいと思っているのか,疑われてしまう可能性が少なからずある(場合によっては,本当に熱意があるか,と問われれば・・・と言うケースもあるかもしれませんが)と言うことでしょう.

そんな意味で,今回この書籍を読みながら,妙にここ最近,僕自身がよく考えることとシンクロする内容だな,と,幸か不幸か感心しながら読み終えることができました.

2023/02/19

情報の強者 ー前回紹介した書籍と併せて読むと,より納得感が増すー

前回紹介した書籍と似たような,というか,ある面で前回の書籍の内容を補足・補填するような書籍を並行して読んでいました.ただ,タイトルからして恐らく,類似した内容だろうなと推測しつつ,相違点・共通点を探しながら読んでみるのも面白いと思い,(実はこのエントリを書き始めた時点では,まだ読了していないのですが)読んでいるのが以下.


前回紹介した書籍のタイトルが”情報の「捨て方」”でしたが,どちらかというと本書の方が,より具体的に”捨てる方法”について記載しているような気がするのは興味深いです.とはいえやはり基本的な構成は類似していて,まずは情報のインプットから話題が進み,その後,取捨選択の方法に向かって展開していきます.

特に印象に残ったのは,

”情報を自ら積極的に取りに行く”

という点です.実はこのプロセスの中には,どのような情報を積極的に取りに行くか,という字面の通りの意味がある一方で,例えば取るべき価値のある情報の周辺にある不要な情報は”意識的に取らない=捨てる”という意味も含まれています.
例えば,新聞は情報としては(ネットなどと比較して)速報性は低いけれど、信頼性や,その記事を執筆する記者のクオリティは高いので,あながち侮れないこと,同様に書籍は,著者の意図や考えが(ネットやTVのように)勝手に=都合の良いように切り取られることなく,すべて余すことなく記載されていることが重要であること.逆に,SNS等のようなネットサービスの場合,利用者の嗜好に従って”利用者が好む=利用者にとって耳障り目障りの良い情報”のみがフィルタリングされて提供されるので,利用者にとって不都合でも重要な情報は,利用者が選別する以前にフィルタリングされてしまい届かない点が問題であること等など,なるほど確かにと思われる記述が続きます.

前回の書籍紹介時に既に感じていて,実は書き忘れていたのですが,学生の皆さんをはじめとするネット利用者の多くは,非常に強力な検索ツール(主にGoogle)を手元に置いているにも関わらず,実はモロに宝の持ち腐れをしている,と僕は思っています.どういう意味かというと,Googleを活用した効率の良い検索の方法を駆使したり,検索すべきキーワードの質が良ければ,いくらでも重要な情報を入手できるにも関わらず,まともな検索の仕方を知らなかったり,そもそも”〇〇について調べよ,という課題が出たから仕方なく,〇〇のみをキーワードにして検索”してしまうので,誰のレポートも同じ内容になったり(さらに性質が悪い場合,wikipediaのコピペであることが丸わかりになって全員再提出になったり)してしまう.本書でも主張していますが,情報は,自ら積極的に取りに行く必要があるもので,誰かに言われたから嫌々に”受け身の姿勢で”入手しようとしても,ろくな成果が挙がらないことが多いです.

それこそ,場合によってはネットで検索するより,近所にいる実際に情報を持っている人から話を聞いた方が有意義である場合もあるでしょうし,SNSからリコメンドされた自分にとって都合の良い情報より,友人や,あるいは初対面の人との会話の中で,自分にとって新鮮な情報を得られることもあるでしょう.これも,自分から人と対話をすることによってしか情報に出会う機会が得られない一例と言えます.

何だか,今回と前回は全編後編のような構成となりましたが,結局のところ,
自分にとって不要な情報をどうやって捨てるか=自分にとって重要な情報をどうやって効率的に得られるか
ということなのでしょう.

・・・実は,ここまで書いた時点で,まだ本書の7割ほどしか読み終えていません.残りの3割では,やっぱり僕の考えとも合っている,インプットしたからにはアウトプットしないとね,といった内容の章が続いているようです.文章自体はこのまま以下に続けていきますが,以降は3章と4章を読み終えた後で追記したものとなります.

3章では,得られた情報を如何にして自分の知識(知恵)として活用するかのノウハウが書かれています.著者はこれをループ,と呼んでいますが,即ち,自分がこれまでに得てきた情報と別な情報との関係性を考慮して情報同士を繋ぎ合わせることで新たな価値が生まれたり,より深い洞察が可能となることを示唆しています.一方で,あまりループを“ガッチリと堅め過ぎることなく“新たな情報が得られたら古い情報を捨ててループに組み込むことで,時代や状況の変化にも柔軟に対応できると著者は主張します.

確かに,情報は鮮度も重要で,古い考えに囚われるが故に新しい考え方や変化についていけなくなる人も少なからずいますから,情報や知識・知恵はどんどんリニューアルしていくことが重要です(特に工学分野で研究や開発,仕事をする人材は,自分の知識をどんどん新しくしていかないと,あっという間に置いていかれます.鏡の国のアリスにおける赤の女王が語っている「その場にとどまるためには全力で走り続けなければいけない」というアレと同様,技術自体が常に進み続けているので,自分が止まっていると置いていかれる,勉強を続けていてやっと最新の状況と同じ状態でいられる,ということですね).

そして最後はやはり,情報を効果的にキープする/活用するにはアウトプットが大事,という話題で締められます(これに関しては,情報を活用しようとする多くの書籍と僕の考えは同一です).
もう一つ,これもまさに同感と感じたのは以下の一節,
「いったん頭の中に入れて,わかった(と自分では思っている)ことを脳の中に整理し,固定化するのにもっとも役立つのは,「わかっていない」人に教えてあげること」
という部分です.
わからない人に教えるためには,自分自身,より深くその対象について理解している必要があり,かつ,どう説明すればわかりやすいかを考えること自体,さらにその対象についての理解を深めるために役立ちます.

特に演習系の科目で,学生の皆さんに相談は歓迎,と言っているのは,わからない学生さんにわかるようになってほしいという面も当然ありますが,むしろ,わかっている(と自分では認識している)学生の皆さんに,さらに理解を深めるために,わからない学生に教えてあげてほしいという意識の方が強いです.そして当然,このやりとりをすることで損をする人間は一人もおらず,完全なる“Win-Win“の状況が形成されるわけです.もちろんこれは演習系に限らず,あらゆる勉強に通じるものですので,ぜひそう言った意識を多くの学生の皆さんにも(それ以外の多くの人にも)持ってもらいたいところ.

2023/02/15

情報の「捨て方」 ーメインテーマは異なる(と思う)、でも、とっても大事ー

ここ最近,いっぺんにたくさんは読み進められないのですが,最近学生さん向けにも(学内限定で)発信した”情報のインプット”に関する書籍を,自分自身に対する復習や確認,場合によっては新たな発見のために読み漁っています.

その中で,前回同様タイトルに引っかかって読み始めたのが以下.


率直に言って現在,我々が触れることができる情報は,我々が想像している以上に膨大で,その中から自分に取って重要な情報のみをピックアップすることは至難の業ですが,不幸なことにそれを理解できている学生さんは皆無と言っていいでしょう.本書でも指摘していますが,そもそも自分に取って必要/有益な情報を得るためには,最低限

”自分にとって不要な情報を遠ざける(スルーする)技術”

および

”自分に取って(即時的に/将来的に)必要(になるかもしれない)情報を獲得する技術”

の両方が必要です.
本書のタイトルを見る限り,上記のうち前者がメインかと思うかもしれませんが,個人的な印象として,本書では後者に大きめのウェイトを割り当てているように思います.

そもそも冒頭しばらくは,どうやって有益な情報を得ていくか,と言う話題にスペースを割いています.
一方,これも本書を読んでいてなるほど!と思ったところですが,そもそも多くの人(学生含む)は,身近に便利な(高スペックな)検索サイトがあるから安心しているものの,それを活用して”何を検索すべきか”については意識していないようだ,と言う推測です(僕も恐らく,そうだろうなと感じています).
実際,学生さんの多くは課題などで「これについて答えよ」と言われると検索サイトをおもむろに使い出し,調べればすぐわかる,と言わんばかりにレポートを出してきますが,だいたいは検索結果の信憑性を検証することもなく嘘情報をコピペしてNGになったり,検索キーワードとして適切なものを入力できず,参考情報に近づくこともできずにタイムオーバー,といったような"こんな便利なツールがあるのに,なんで検索さえできないの?"
と思うことがほぼ100%です.つまりそもそも,(時代の最先端を行く若者のくせに)使い方が分かっていない上に,簡単にガセネタを掴まされてぬか喜びしている,というアホな状況に陥っていると推測しています。

自分にとって必要な情報だけを得る(=不要な情報はシャットアウトする)にはまず,自分に取って必要な情報とは何で,不要なものは何かを知るところから始まります.要は,自身の現在/将来の興味をしっかり把握し,そこにアンテナを張って置けるか,アンテナに引っかかった対象について効率よく知識を得ることができているかが重要です.

例えば上でも例示したような,授業で課題が出されたから仕方なく(安直に)ググる

といったレベルでしか検索サービスを利用していないようであれば,モロに”宝の持ち腐れ”状態であり,常に自分の興味や(興味はあるが)知らない世界に対するアンテナを張っておくことで,現代の検索サービスの存在意義は何百倍、何千倍になる(このような使い方ができない人との格差はどんどん広がっていく)ことになりますよ,と.

加えて,これはついこの前のエントリとも密接に関連しますが,不要・有害な情報を避けながらインプットをしっかりとしていくことは,自身にとってさらに有益な”効果的な情報のアウトプット”に繋がると言う記述を読んで,さらに納得感が強まりました.

本書でも最終的に目指すところは”良質なアウトプットをするためには,良質なインプットが重要(そのため,好ましくないインプットはフィルタリングしましょう)”と言うところなのだな,と認識できた時点で,冒頭からの全ての章のつながりが一気にイメージできた感があります.
さらに,大前提として,ただ単に情報をインプットする意識ではなく,”アウトプットする前提でインプットする”ことを意識することで,情報に関する感度が猛烈に上がることも非常に同意できます(実際,僕がこのブログで紹介している書籍や映画の紹介では,読み終わったら/観終わったら紹介しよう,と言う意識を持ちながら読書や映画鑑賞に臨んでいるので(慣れないと疲れますが),印象的な点,おもしろかったところつまらなかったところ,自分だったらこう書くな/演じるな(?)と思った点など諸々について,メモまで取らぬまでも,記憶にしっかり焼き付けたり,書籍なら印象的なページを写真撮影したりもします).

こういった作業は,皆さんと情報共有するためという目的は当然あるものの,それより何より自分自身に取って,”教養”を涵養するための非常に重要な作業になっています.
本書では教養についても終盤で触れていて,個人的にはとても納得できる説明・定義になっていたので,以下に引用します.

「身に付けるつもりもなく摂取してきたものは、年月を経るうちにいつのまにか、豊かな人生を送るのに欠かせない教養と呼ばれるものに変貌を遂げています」

本書ではタイトルの通り,情報を「捨てる」方法について述べているものの,確実に各々にとって不要な情報は積極的に排除しつつ,その一方で今後必要な & 必要になるかも知れない情報を広く入手することで,今後の自分の”成長のために必要な情報に対するアンテナ感度”をどんどん上げていくための方法について記述しているといえるでしょう.

このため,個人的に本書を読み進めるにあたり,しばらくの間は
なんだ,タイトルと違うじゃん
という印象から始まり,その後
なるほど確かに,”捨てる方法を洗練させるには,選別の方法は重要だね”
と思えるようになり,さらに
そうそう,結局一番大事なのはアウトプットだよ
と考えながら読み進めていき
確かに!教養がないことには(より)良質なインプットもアウトプットも実現できないな
と,大いに納得した次第です.

本書のタイトル(& 興味を持ってもらえたのであれば,このエントリ)に騙されたと思って,読んでみてもらえればと思います.

P.S. 本書の著者,成毛眞氏は,ついこの前,東京高専情報工学科某各年向けに投稿したコンテンツに含まれている書評サイト「HONZ」の代表者であり,日本マイクロソフト社の初代メンバでもあります.

2023/02/13

職業としての科学

 先日から読んでいた以下の書籍

職業としての科学 (佐藤文隆 著,岩波新書)

タイトルに惹かれて読み始めたのですが,冒頭からしばらくの間は,科学技術の歴史的な内容が多く,かつ,文章が堅苦し過ぎて読みづらさがありました(これには最後まで慣れなかった・・・と書きましたが,終盤になって内容がガラッと変わってから,多少読みやすくなりました)).
一方,そういった中でも,タイトルにある職業としての科学の歴史の変遷に伴う位置付け側から記述も当然あり,そこの所はなかなかに興味深いものがありました.

その昔,科学は生活に余裕のある人,もしくは生活に余裕のある人の支援を受けた人の活動であり,また,かなりの部分で宗教的なバックグラウンドを有したものであったと.それが,産業革命を契機に一気に工業的産業的な価値と結びつくようになり,いわゆる国家の政策としての趣を帯びたものになっていく.

もしかすると学生の皆さんはこう言った経緯を授業などを通して知っているのかも知れませんが,実は僕が学生の頃にはこういったコンテンツを教えてくれる授業が(僕の母校の函館高専には)当時存在しておらず,世界史のバックグラウンドから予想はしていたものの,科学の歴史にフォーカスした書籍を読むのは今回がほぼ初めてということもあり,その部分は非常に面白く読めました.

一方,書籍終盤では一気に現実的な(ある意味世知辛い)内容となってきて,それこそ,”研究者の卵”が本当に研究者になれる割合はどのくらい?とか,そもそも”食っていけるのか”といった議論が国内外の比較を通して行われており,いわゆるアカデミックな職業(大学・高専の教員)だけではなく,企業研究者なども含めた話題は,こういった職業を将来の進路(候補)として考えている皆さんにとっても面白いと思います.また,科学の進歩は科学者自体の活動をも大きく変えていて,さまざまなものが自動化されたり,(仕組みを正確には or 全く知らなくとも)雑多な作業を簡略化できるようなツールも生まれてきています.

こういった”文明の利器”は,我々の活動を効率化したと同時に,実はかなり”サバイバルな状況”も作り出しています(苦笑).オリジナルなものを作り出すことが難しくなってきているし,いわゆる科学者は,こういった便利なツールを使う側ではなく,むしろ”仕組みを知り尽くし,新たに創り出す側”に存在する必要があります.いや,実のところ,この点については科学者よりもさらに範囲は広くて,工業高専の学生の皆さんもこういったサバイバルを生き残って活躍していく必要がありますね.皆さんは,仕事を効率化するようなものでもアミューズメント目的であっても,便利なツールやアプリ,例えばGoogleやInstagram,TikTokやChatGPTなどを使って満足しているだけではダメで,それよりも便利なハードウェアやソフトウェアを,今後どんどん産み出す側に回ることを(我々教員や,社会から)期待されています(大袈裟でなく).

上述の通り,本書の前半と後半は見事に声質が異なっているように見え,前半は科学技術史,後半は現在も含めた今後の科学,および科学者についてまとめたものと言えるでしょう.
もしかすると,すでに授業などで習っている学生の皆さんは,最後の3章,もしくは2章を読むだけでも十分に面白いかと思いました.

2023/02/06

読んでほしい本 ー自分のアタマで考えようー

 現在,東京高専に限らず,多くの大学(特に工業系の場合),高専の最上級生の学生は,卒論や特研論文(専攻科生),修士論文や博士論文の執筆に追われていることと思います.

特にここ数年気になっているのは,学生の文章作成能力が急激に落ちてきていると感じることです.文章表現・作成能力は,もちろん作文のスキルも構成要素ではありますが,そもそも”何を書くか”,また,”どのように書くと,その文章の読者にとってわかりやすいか”を考えることが重要です.そういう意味では,例えばなんらかの目的を達成するために手法を提案し,実験をするにしても,

  • その実験はなんのためにやっていて
  • どのように実施すれば目的を適切に果たすことができて
  • 得られたデータをどのように評価すればわかりやすい考察となるのか

といったポイントについて考えた上で実施する必要があります.明日意味,こういったことがしっかりと考えられていれば,得られた成果を文章や図表にするのはそれほど難しくないのかもしれません.が,恐らく最近の学生の皆さんは,研究を立ち上げたり,進めたり,実験計画を検討したり,実施したりする前に,十分に自分の頭で考えてみる,ということができていないような気がします.

ただ,そうは言ったものの,どうすれば”ものの考え方”を教えられるかというところが結構難しく,こうすれば良いのに,と思ったり,それを伝えて見たりしても,実は教えた時点でそれは個々の学生にとっては”先生から教えられた「知識」”になってしまうことが多く,結局やっぱり自分で考える(考えさせる)機会がなかなか生まれないこととなることも多い.

そんな中,以前から気になっていた以下の書籍を読む時間ができ,一気に読み終えました.

ちきりん,自分のアタマで考えよう,ダイヤモンド社,2011.

ちきりんはハンドルネームで,ブロガーとして大人気であった方で(ここ最近は更新があまりされれおらず,twitter等に舞台を移しているかもしれませんね),調べてみたら最近も本は執筆されているようで,続刊も読んでみたいと思っているところです.

この書籍で,まず重要なところは,”知識と思考を分ける”というところ.知識とは情報です.ある意味では正解かもしれないし,誤った情報である可能性もあります.ただし,それが正解か不正解かは本来,自身で考えて吟味してみないと分からないことが多いです.が,多くの人はその情報を見つけた時点で,それが正解かどうかを考えることなく,大体は(なぜか)正解だとみなしてしまいます.もしかするとそれは,得られた情報が正しいかどうか,考えたり調査したりする方法を知らないためかもしれません.
そういう意味ではむしろ,考える練習をするためには,調べれば分かる(かもしれない)ようなことでも,調べる前に,あえて自分で考えてみる,ということが重要だとこの本でも述べられています.とはいえ,考える習慣がない,考えるトレーニングが十分でない人が考えても,なかなか思考が進まないことは多々ありますし,考えていると本人は思っていても,実はただ単に時間だけが過ぎていってしまう場合も少なからずです.

本書では様々な事例を挙げながら,どのように考えると良いのか(新たな知見が得られたり,情報に踊らされずに済むのか)について,複数の”考える方法”を紹介しています.

どうやって考えると情報に踊らされず(騙されず),もしくは,自分のやりたいことを自分自身でも効率よく整理できるのか,個人的には,自分ではできているはずなのに人に教えるのが難しい感覚を(特にここ最近)持っていたのですが,この本を読んでもらうことで,考え方を学ぶヒントになるのではないかと感じるほど,自分が伝えたいことをうまく言語化してもらっていると思えました.

その点,実は僕自身,”どのように伝えるとうまく考え方を教えられるのか”については思考が十分ではなかったということになりますが,この本を読んで,伝え方のヒントが得られた感があることに加え,是非”考え方を知りたい人”にもお勧めしたいと思っています.

本書にも記載がありますが,思考を深める過程で重要なステップとして,まずは言語化があります.よく考えることで,思考の過程や結果をうまく文章として表現できるようになります.さらにそのもう一歩先に,”視覚化”があります.文字表現したものを,さらに概念的に図やイラストなどで表現できるようになると,多くの人にとって一眼で理解できるような情報(思考の結果得られた知識)となります.
こういったトレーニングを積むことで,冒頭で記載したような論文執筆に苦しむ学生も,実験の考察がうまくできないような学生も,考えた上で読者にとってわかりやすい文章を書けたり,一目見て比較しやすいような図表,グラフを作成したりすることができるようになると期待できそうです.

今現在執筆中の学生にとってはちょっとタイミングが遅かったかもしれませんが,考えることの重要性は,今後,特に社会人になってからはさらに高まります.遅すぎるということはないので,もし興味を持った人は,一度手に取って読んでみてもらえればと思います.お勧めします.

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