2023/02/13

職業としての科学

 先日から読んでいた以下の書籍

職業としての科学 (佐藤文隆 著,岩波新書)

タイトルに惹かれて読み始めたのですが,冒頭からしばらくの間は,科学技術の歴史的な内容が多く,かつ,文章が堅苦し過ぎて読みづらさがありました(これには最後まで慣れなかった・・・と書きましたが,終盤になって内容がガラッと変わってから,多少読みやすくなりました)).
一方,そういった中でも,タイトルにある職業としての科学の歴史の変遷に伴う位置付け側から記述も当然あり,そこの所はなかなかに興味深いものがありました.

その昔,科学は生活に余裕のある人,もしくは生活に余裕のある人の支援を受けた人の活動であり,また,かなりの部分で宗教的なバックグラウンドを有したものであったと.それが,産業革命を契機に一気に工業的産業的な価値と結びつくようになり,いわゆる国家の政策としての趣を帯びたものになっていく.

もしかすると学生の皆さんはこう言った経緯を授業などを通して知っているのかも知れませんが,実は僕が学生の頃にはこういったコンテンツを教えてくれる授業が(僕の母校の函館高専には)当時存在しておらず,世界史のバックグラウンドから予想はしていたものの,科学の歴史にフォーカスした書籍を読むのは今回がほぼ初めてということもあり,その部分は非常に面白く読めました.

一方,書籍終盤では一気に現実的な(ある意味世知辛い)内容となってきて,それこそ,”研究者の卵”が本当に研究者になれる割合はどのくらい?とか,そもそも”食っていけるのか”といった議論が国内外の比較を通して行われており,いわゆるアカデミックな職業(大学・高専の教員)だけではなく,企業研究者なども含めた話題は,こういった職業を将来の進路(候補)として考えている皆さんにとっても面白いと思います.また,科学の進歩は科学者自体の活動をも大きく変えていて,さまざまなものが自動化されたり,(仕組みを正確には or 全く知らなくとも)雑多な作業を簡略化できるようなツールも生まれてきています.

こういった”文明の利器”は,我々の活動を効率化したと同時に,実はかなり”サバイバルな状況”も作り出しています(苦笑).オリジナルなものを作り出すことが難しくなってきているし,いわゆる科学者は,こういった便利なツールを使う側ではなく,むしろ”仕組みを知り尽くし,新たに創り出す側”に存在する必要があります.いや,実のところ,この点については科学者よりもさらに範囲は広くて,工業高専の学生の皆さんもこういったサバイバルを生き残って活躍していく必要がありますね.皆さんは,仕事を効率化するようなものでもアミューズメント目的であっても,便利なツールやアプリ,例えばGoogleやInstagram,TikTokやChatGPTなどを使って満足しているだけではダメで,それよりも便利なハードウェアやソフトウェアを,今後どんどん産み出す側に回ることを(我々教員や,社会から)期待されています(大袈裟でなく).

上述の通り,本書の前半と後半は見事に声質が異なっているように見え,前半は科学技術史,後半は現在も含めた今後の科学,および科学者についてまとめたものと言えるでしょう.
もしかすると,すでに授業などで習っている学生の皆さんは,最後の3章,もしくは2章を読むだけでも十分に面白いかと思いました.

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