2023/02/06

読んでほしい本 ー自分のアタマで考えようー

 現在,東京高専に限らず,多くの大学(特に工業系の場合),高専の最上級生の学生は,卒論や特研論文(専攻科生),修士論文や博士論文の執筆に追われていることと思います.

特にここ数年気になっているのは,学生の文章作成能力が急激に落ちてきていると感じることです.文章表現・作成能力は,もちろん作文のスキルも構成要素ではありますが,そもそも”何を書くか”,また,”どのように書くと,その文章の読者にとってわかりやすいか”を考えることが重要です.そういう意味では,例えばなんらかの目的を達成するために手法を提案し,実験をするにしても,

  • その実験はなんのためにやっていて
  • どのように実施すれば目的を適切に果たすことができて
  • 得られたデータをどのように評価すればわかりやすい考察となるのか

といったポイントについて考えた上で実施する必要があります.明日意味,こういったことがしっかりと考えられていれば,得られた成果を文章や図表にするのはそれほど難しくないのかもしれません.が,恐らく最近の学生の皆さんは,研究を立ち上げたり,進めたり,実験計画を検討したり,実施したりする前に,十分に自分の頭で考えてみる,ということができていないような気がします.

ただ,そうは言ったものの,どうすれば”ものの考え方”を教えられるかというところが結構難しく,こうすれば良いのに,と思ったり,それを伝えて見たりしても,実は教えた時点でそれは個々の学生にとっては”先生から教えられた「知識」”になってしまうことが多く,結局やっぱり自分で考える(考えさせる)機会がなかなか生まれないこととなることも多い.

そんな中,以前から気になっていた以下の書籍を読む時間ができ,一気に読み終えました.

ちきりん,自分のアタマで考えよう,ダイヤモンド社,2011.

ちきりんはハンドルネームで,ブロガーとして大人気であった方で(ここ最近は更新があまりされれおらず,twitter等に舞台を移しているかもしれませんね),調べてみたら最近も本は執筆されているようで,続刊も読んでみたいと思っているところです.

この書籍で,まず重要なところは,”知識と思考を分ける”というところ.知識とは情報です.ある意味では正解かもしれないし,誤った情報である可能性もあります.ただし,それが正解か不正解かは本来,自身で考えて吟味してみないと分からないことが多いです.が,多くの人はその情報を見つけた時点で,それが正解かどうかを考えることなく,大体は(なぜか)正解だとみなしてしまいます.もしかするとそれは,得られた情報が正しいかどうか,考えたり調査したりする方法を知らないためかもしれません.
そういう意味ではむしろ,考える練習をするためには,調べれば分かる(かもしれない)ようなことでも,調べる前に,あえて自分で考えてみる,ということが重要だとこの本でも述べられています.とはいえ,考える習慣がない,考えるトレーニングが十分でない人が考えても,なかなか思考が進まないことは多々ありますし,考えていると本人は思っていても,実はただ単に時間だけが過ぎていってしまう場合も少なからずです.

本書では様々な事例を挙げながら,どのように考えると良いのか(新たな知見が得られたり,情報に踊らされずに済むのか)について,複数の”考える方法”を紹介しています.

どうやって考えると情報に踊らされず(騙されず),もしくは,自分のやりたいことを自分自身でも効率よく整理できるのか,個人的には,自分ではできているはずなのに人に教えるのが難しい感覚を(特にここ最近)持っていたのですが,この本を読んでもらうことで,考え方を学ぶヒントになるのではないかと感じるほど,自分が伝えたいことをうまく言語化してもらっていると思えました.

その点,実は僕自身,”どのように伝えるとうまく考え方を教えられるのか”については思考が十分ではなかったということになりますが,この本を読んで,伝え方のヒントが得られた感があることに加え,是非”考え方を知りたい人”にもお勧めしたいと思っています.

本書にも記載がありますが,思考を深める過程で重要なステップとして,まずは言語化があります.よく考えることで,思考の過程や結果をうまく文章として表現できるようになります.さらにそのもう一歩先に,”視覚化”があります.文字表現したものを,さらに概念的に図やイラストなどで表現できるようになると,多くの人にとって一眼で理解できるような情報(思考の結果得られた知識)となります.
こういったトレーニングを積むことで,冒頭で記載したような論文執筆に苦しむ学生も,実験の考察がうまくできないような学生も,考えた上で読者にとってわかりやすい文章を書けたり,一目見て比較しやすいような図表,グラフを作成したりすることができるようになると期待できそうです.

今現在執筆中の学生にとってはちょっとタイミングが遅かったかもしれませんが,考えることの重要性は,今後,特に社会人になってからはさらに高まります.遅すぎるということはないので,もし興味を持った人は,一度手に取って読んでみてもらえればと思います.お勧めします.

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