2023/01/31

映画鑑賞 ーケイコ 目を澄ませてー

 雑誌の映画紹介で取り上げられていて,興味を惹かれすぐにチケットを取り,観に行ってきました(いわゆる衝動買いですね).

ケイコ 目を澄ませて

 映画の題材を一言で表してしまうと,耳の聞こえないプロボクサーの映画,ということになるのですが,字面だけを見てのイメージと,実際に映画を見た際の印象は全く違うと思います.
僕が本作を見た感想を表すとするならば,

”生きることの大変さと面白さを感じられると同時に,こんなに身近にこんなに綺麗なものが隠れているんだ,ということを感じさせてくれた作品”

と言えるかと思います.
生きていると,大変なこと,辛いこと,思い通りにいかないことって多いですが,だからこそ,ちょっとしたことで感動できたり喜べたりする.人生って素晴らしい!というほど手放しに肯定できないものの,”まぁまぁ面白いじゃん”と思える気持ちは大事だな,と,本作を観てしみじみと感じました.

率直に行って,涙が出るほど感動した,とか,大ハッピーエンド,といった終わり方もしていないように思いますが,逆にそれが妙にリアルだし,しっかりと”自分ごと”として体に入ってくるような感覚です.

そしてそういった日常の中でのさまざまな風景や音が,これまた非常に効果的に,とはいえ自然に物語を彩っています.古いボクシングジムが主な舞台でもあり,練習風景も沢山登場しますので,ミット打ちやロープスキッピングのリズミカルな音が心地よかったり,また,東京23区内が舞台なので、電車の通る音も頻繁に入ってきます.要は,ボクサーにとっての環境音がそのまま映画のBGMとなっているのですが,当の主人公であるケイコにはそれら全てが聴こえていない,という極端に対照的な状況が,むしろケイコの心情を推し量りたくなる感情を引き起こします.

映画鑑賞後にパンフレットを読んでいて改めて気がつきましたが,主演のケイコ役である岸井ゆきのは,本作ではほとんど,非常に短いほんの一言二言しかセリフを話していません.演技はほとんど表情と,タイトルにもなっている”目”によるものですが,それらの演技が非常にケイコを”雄弁に喋らせて”いたため,全く違和感なく,むしろ喋らない(喋れない/聞こえない)ことでさらにストーリに入り込みやすくなっていたとも感じられます.

ここ最近で見た映画と比較すると,土を喰らう十二ヶ月と近いかもしれませんが,それよりもさらに人生,人,人の感情そのものにフォーカスした,しみじみと静かに,良い映画だったなぁ,と思い返すことができる作品でした.
決して派手な作品ではないので,公開されている映画館もそれほどは多くないようですが,後から知ったところでは海外での評価も高い作品とのこと.

最後にもう一点,忘れずに書いておきたいこととしては,上にも記載した通り,この映画の舞台は東京都で,エンドロールでも東京23区内のさまざまな風景が取り上げられているのですが,そのそれぞれが非常に良い.それこそ,土を喰らう〜では,日本の田舎の美しい風景が沢山挿入されていましたが,都会には都会の良さがあるし,それに加えて,自分が今住んでいる東京にも,都会ならではの美しさがあるな,と改めて感じさせてくれる映画でもありました.そしてそれは,普段通勤の途中やウォーキングの途中,ふと見かけた綺麗な風景や面白かったり興味深かったりした風景を写真におさめるこのと多い僕にとっても,非常に共感できたし,むしろこの”都会の環境音と景色”については,この作品でも地味ながらウリとなりうるコンテンツだと思いました.

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