2021/12/11

2021冬の読書週間 ー研究者に興味のある人へー

ちょっと返却締切が過ぎてしまった子供達の借りた本を図書館に返しつつ,事もあろうに(!?)自分が読む本を代わりに借りてきました(先のエントリでも書いたと思いますが,現在読んでいる本も数冊ほど“現在進行中”です).

今回借りた本は,どちらかというと新たな知識を得るため,というよりは“答え合わせ”のため,および,もしかすると将来的にアカデミックな世界(研究者や大学・高専の教員)を目指したいと考える学生がいたときに紹介できる良い本を探す,といった目的のものなので,借りた側からどんどん読み進めて「確かにそうだよね」と思う部分を確認しながら読んでいます.

具体的な書籍名は以下の通り(他にも借りていますが,今回紹介するのはこの一冊)

ヒラノ教授の論文必勝法 今野浩 著 中公新書ラクレ

この“ヒラノ教授シリーズ”は,研究者(の卵&ヒナ)にとってはかなり有名なシリーズなのですが,僕が手に取って読み始めたのは研究者になってからかなり後で,「すべて僕に任せてください ー東工大モーレツ天才助教授の悲劇ー」という,実話に基づく物語を読んだところからスタートしています.

著者の今野先生は多数の学術論文が学術誌に掲載されているだけでなく,上のような“一般の人向け“の書籍も数多く執筆していて,特に有名なのがこの,ヒラノ教授シリーズです.

おそらく,ここを見ている(主に(東京)高専,本科の学生と思われる)皆さんにとって,論文とは未知のものだと思われますが,ごく簡単に説明すると

主に自身(の含まれる研究グループ)の研究成果を発表するための出版物

で,

一般的に査読(さどく)と呼ばれる審査をクリアすることによって出版される

ものを指します.上記の査読がない論文を「査読なし論文」として「査読あり(査読付)論文」と区別する場合がありますが,ぶっちゃけ査読なし論文は(特に工学系の)研究者にとっては研究業績になりません.
“研究業績にならない”ということは何を意味しているのか,というと,猛烈にぶっちゃけると,たくさん書いたところで出世(昇任)には影響しないということです.

今回紹介している「論文必勝法」ですが,いわゆる論文を書くための文章表現技術だったり章・節の構成などに関する詳細な説明はむしろ記載されておらず,論文を書くために必要な環境や心構え,研究を進めるために必要なお金の獲得の仕方といった,より”戦略的な”話題にフォーカスしているのが面白いですね.加えて,そういった戦略的なお話が,著者の今野先生やその同僚の実体験として紹介されていることが,ここの話題をよりリアリティを持って伝えるのに貢献している.

そろそろ8割くらい読み終えたような状況ですが(恐らく今日中に読み終わる),個人的に非常に共感したのは

「研究という営みには、誰にも邪魔をされない”まとまった”時間が必要である。日本の大学で、このような時間に恵まれるのは、学生時代と、思いやりがある教授の助手(現・助教)として過ごす数年間だけである」

という一節と、効果的に研究を進める(&論文を継続的に執筆する)ためのノウハウとして紹介された

「既に掘りつくされた鉱山で落穂拾いをせずに、積極的に新しい分野に参入して、創業者利益を手に入れること。その際すべてを自分だけでやろうとせずに、学生や同僚を巻き込むこと」

という一節です.

僕の場合,大学生・院生の時代と大学の助手・助教時代の間にポスドク(非常勤研究員)の時代もあり,これらがまさに研究に専念できるまとまった時間だったと思いますが,まさに(冗談やお世辞抜きで)大学教員になった際の最初のボスは,「是非ご自身の研究に時間を使ってください」と仰られたので,非常にありがたかったとともに,ここまで言われて成果が出なければそれは完全に自分の責任だな,と身が引き締まったことを思い出します.

また,研究分野を徐々にシフトしていくというノウハウは実際に行なっていて,基盤となる概念は”学習&適応”というキーワードで串刺ししているものの,それをベースにしつつ,”人工生命””マルチエージェント””確率モデル””教育工学””介護予防””フードロス&食育”といった分野にピボットを移しながら研究を進めています.また,東京高専の学生ならご存知の通り(!?),僕自身はアホほど忙しいことがほぼ日常と化しているので,多くの優秀な学生さんや共同研究者の先生からサポートしてもらいながら,彼ら彼女らと共著の形で論文を発表しているという状況です.

残り2,3割ほどまだ読み終えていないのですが,少なくともここまでの”答え合わせ”は個人的にはほぼ全問正解かと思っていて,残りも今日のうちに答え合わせを終えたいなと考えています.

冒頭で,アカデミックな世界に興味がある or 研究者になりたい学生におすすめしたい本を,と書きましたが,いわゆる論文単体をきっちりと仕上げるためのスキルに関する書籍は,今回紹介する本ではなく,文章表現や英文表現に関する別な本がまた色々とあります.今回紹介した論文必勝法は,より大局的,戦略的な意味で,どうやって研究者としてやっていくか,どうやってバリバリと研究が進められて,安定的継続的に論文を執筆できるか,といったノウハウが詰まっているという意味で,是非読んでみることをおすすめしたい本ですね.

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