2021/12/11

質か量か,だけではない,の続き

 先ほどアップした文章,少し補足があったので追記します.

先ほどのエントリでは,現在読んでいる本の中で,日本の高等教育は(特に文章の読み書きについて)”広く浅い=十分な時間をかけてトレーニングできていない”こと,それには構造的環境的な状況が原因として挙げられること.そして,個人的にはその状況は好ましくないと思っているけれど,それこそ僕の周辺の状況を鑑みても,やはり簡単に改善することは難しいと思っていること,までを書きました.

が,ここで終わってしまうと,”いやぁ困ったね.でもしょうがないよね”という,身も蓋もない結論で終わってしまうなぁ(苦笑),と自分で読み返して気づいてしまったので,じゃぁ解決策はあるの?という話を少しだけ書き足していきます.
先ほどの文章では,僕の個人的な経験として,個人レベルであれば”自身の創意工夫と努力で”いくらでもインプット/アウトプットの力は鍛えられるという話をしました.これは,全く同じ方法ではなくとも,それぞれに合った方法で同じような(or それ以上の)効果を出す方法があると思います.
一方,いわゆる構造的環境的な問題を根本的に解決する方法があるか,といえば,これは少なくとも僕個人の能力影響力の範疇を超えてしまうので,今回は枠組を”現在の東京高専における僕の周囲”という,僕の能力影響力の及ぶ範囲に限定して考えてみました.

その場合,実際にインプット/アウトプットの能力を鍛える場はあって,それは卒業研究や特別研究に関連する作業に相当します.
ただし,この作業において先に引用したような「多くの文献を読んで,それに関する分析や自身の意見を大量に書く」ような課題と同じことをやることはかなり難しく,また,そもそも論として僕のところにきた学生全員に同様の作業を課したら,前のエントリに記載したのと同様、学生は倒れるし僕も倒れる可能性が非常に高いです(苦笑).
少なくとも現在の状況において,このような質・量双方が伴うトレーニングを行うには,指導する側もされる側もそれなりの”覚悟”が必要です.やったら絶対に効果が出ることはわかっているものの,一方で絶対に”猛烈に大変であることもわかって”います.加えてその効果ですが,僕の研究分野である強化学習よろしく,”報酬は遅れてやってくる(=即効的な効果が期待できるかどうかはわからない)”のが悩ましいところです.少なくとも自分の能力向上を自覚できる状況となるのに,遅い人は数ヶ月から1、2年かかるかもしれません(要は,トレーニングしている当初はただただ大変なだけ・・・).が,何ヶ月か何年か経って,同様の課題に向かった際,当時の経験が強力に生きてくるという状況に遭遇して「あ,自分は成長できている」という実感ができる,とでもいうのか.

トレーニングの題材は,自分の研究内容と,その関連研究です.卒研や特研では当然,そのバックグラウンドとなる参考文献も調査する必要がありますし,中間発表や最終発表,学会発表で論文原稿を書く機会もあります.最後には卒論や特研論文をまとめる必要もあります.変な言い方になりますが,”最も成長できるコース”を選ぶ覚悟を決めた学生は,いくらでもハードなトレーニングを積めますし,それを望まない学生に無理やりそのようなトレーニングをしても誰も幸せになりませんので,その場合には”卒業できるコース””ちょっと良い卒論が書けるコース”などもご用意しています.

では,幸か不幸か(!?)ある年の学生さん全員が最も成長できるコースを選んだ場合,上に書いたように学生も教員も共倒れになるか,と改めて想像してみましたが,恐らくそうはならないだろうという予想が過去の記憶を伴って浮かんできました.
大体そういった”意識の高い”(念の為申し上げておきますが,この場合最後に「系」の字はつきません)学生が集まった場合,学生さん同士でも切磋琢磨する環境が生まれ,教員は”押さえるべきところさえ押さえて”おけば,学生さんが自分達でどんどん成長していく,というシチュエーションが生まれる,という経験を遠い昔にしたことがありました.そのような環境はなかなかお目にかかれるものではありませんが,学生のモチベーションが高いとこちらとしても非常に喜ばしく,ポジティブな刺激を受けますので,学生-教員間でも前向きなフィードバックループが回るようになります.

ただし,これはこれで理想的な状況ではあるものの,繰り返しになりますがトレーニング自体は非常に大変なものですから,途中で路線変更する学生や,最初から”卒業できるコース”を選ぶ学生もいますし,それが悪いとも全く思いません(むしろ,無理をして結果として卒業できなくなってしまっては元も子もありません).

一番大事なことは,(少なくとも僕に関しては,最低限のルールや仁義を守り,やるべきことをやってくれるという前提条件さえ満たしてくれれば)それぞれの学生さんとの相談のもとで,それぞれの状況に合った方向で,それぞれの目的に合ったゴール設定をすることだと思っています.そのためには,むしろ勉強に関するインプット/アウトプットの量以前に,”相互のコミュニケーションがちゃんと取れるか/取れているか”の方が圧倒的に重要で合ったりします.

上記,あくまで自分のごく周囲のみについての考えですから,根本的な解決にはなっていないのは明白ですが,少なくとも僕の研究分野に興味を持って(状況によって,必ずしも興味はないのに)研究室に来てくれた学生さんが,少なくとも何か”成長できたと実感できる”もの・ことを身につけた上で卒業できればいいな,と思っています.
繰り返しになりますが,何につけても最も重要な必要条件は,頻繁なコミュニケーションです.

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