2022/12/24

文系と理系 ー区別している時点でアウトー

非常に興味深い本を読みました.


ちなみにこの書籍内でも記載がありますが,文系・理系(工学系)といったカテゴリが存在するのは日本のみで,これは非常に“悪しきカテゴライズ“だと思っています.著者もまさにそれを言っていて,とはいえ,タイトルにあるように,いわゆる文系として高校や大学で学んだ人材は,今後グローバル化やデジタル化(AIをはじめとする技術の発展・一般化)が進むにつれて,“「食っていく=給料をもらって生活していく」ことができなくなる“ということを述べています.

この主張,僕的には納得できる部分が大いにある一方で,納得できないというか,抜けている部分があると感じました.
具体的にいうと,“文系だけでなく理系も,いわゆる理系として身につけられる能力だけでは「いずれ食っていけなくなる」“ということです.

日本でいうところの文系人材は,敢えてシンプルかつネガティブな言い方をすると,“高等教育で理科と算数に関する勉強をしてこなかった”人々を指すのが一般的です.それこそ大学入試で物理や数学といった科目が受験科目に含まれないような大学・学部は文系大学・文系学部ということになります.逆にいわゆる理数系の勉強(ばかり?)を中心的に学んだ人は理系人材ということになります.僕が所属している東京高専は“工業高専“ですから理系ということになるんでしょうね.

著者は,今後文系が生きていく(就職する,転職する,起業する)にあたって重要なスキルとして,

英語力,ファイナンス,コンピュータ(プログラミング)

を挙げていますが,これって文系人材のみに必要なスキルでしょうか?率直に申し上げて理系(それこそ高専の学生)にとっても上記のスキルは非常に重要です(というか,知識やスキルがない/足りない人が多いと思います).
上記のうち二つ目=ファイナンスは,いわゆる経済の仕組みやお金に関する知識を指していますが,日本の教育機関でこれをしっかり授業として教えているところはどれだけあるんでしょうか?少なくとも僕は習った記憶がないです(辛うじて,中学社会で株式会社って何?程度のことを習った程度です).将来起業したいような人は確実に,そうでない人も確実に必要な知識ですが,上記の通り学校で教わる機会はほぼないので,残念ながら自分で身につけるしかありません.
また,三つ目のプログラミングは,高専,特に情報工学科では科目もたくさんありますが,では同学科の学生は全員プログラムが得意かといえばそんなことはありません(心当たりのある人もいるでしょう).プログラムが上手く書けるようになるには“数理的なものの考え方”が重要です.プログラムが得意な学生は数学系の科目やその他の情報系専門科目も得意な学生が多いと思いますが,プログラムを扱ったことがない文系の学生であっても,数理的なものの考え方ができれば,今後食って行ける可能性が高いでしょう(逆に,いわゆる理系の学生で,プログラムがもし書けたとしても,数理的な考え方が身についていない学生は将来,困ることがあると思います).

一方,当該書籍では記載がないものの,文系・理系に関わらず必要だと思われるスキルがもう一つあると僕は考えています.授業などでもよく話しているので気がついている人もいるかもしれませんが,ある種何よりも重要なのが

コミュニケーション能力

でしょう.これは上に挙げた3つのスキルの1つ目,英語とは別物です.英語力は語学力であってコミュニケーション能力ではありません.コミュニケーション能力を簡単に定義すると,
“伝えたい相手に応じて,相手に伝わりやすい手段で伝えられる能力”
といえます.実はこの能力,さまざまなサブスキルから構成されています.まず,思いやりが重要です(思いやりがスキルか,という話はありますが,相手の知識量や状態を観察したり推測したりするのは立派なスキルと僕は思います).加えて表現力も必要ですし,何より大前提として,それを伝えられる自身の知識量が重要です.

書籍にも記述がありましたが,英語がペラペラでも,伝えるべき知識がなかったり教養がない,だったり,文法はメチャクチャ知ってるのに,相手によって使い分けられないとなれば,その英語力は完全なる“宝の持ち腐れ“です.そんなくらいなら多少文法に誤りがあろうが発音がおかしかろうが,相手のことを考えて有用な情報を熱心に伝えようとしてくれる人の方がよっぽど好感を持たれるでしょう.

冒頭に書いた通り,そもそも文系理系というカテゴライズは日本特有のもの,と書きましたが,敢えてそこを意識して本書はタイトルをつけたのだと予想します.
その一方で勿体無い,というか,読んでみて強く感じたのは,この本で伝えたい内容は文系人材のみに向けた物ではなく,
“理系文系どころか性別にも年代にも関わらない,(今後)食っていく必要がある人”
を対象としていると思われるので,自分は文系だと考える/感じる人たちだけではなく,ぜひ理系の人(例:高専の学生)にも読んでもらいたい内容だったということです.
書籍終盤では,企業での勤務後,教育業界に関わることとなった方と著者との対談が記載されていますが,まさにこの部分は理系文系関わらず,“日本の教育”について議論されたものといって間違いありません.

書籍の中では上記の他にも,リスクを取らないことほど大きなリスクはない,とか,変わり続けるものこそが生き残る,といった印象的なフレーズも出てきます.
これらも全て,理系文系関わらず全ての人にとって,特に今後さまざまな分野で活躍してほしい学生の皆さんにとって重要な考え方だと思っています.

大学の教員は教授になってしまったら安泰なので向上する気がない,とか,学生に問題があるのは教える側にも問題がある,とか,毎年同じ講義をしている(授業で自分の教科書を読み上げるばかり)と言った耳の痛い記述もありますが,個人的には極力こうならないように努力しているつもりです.こういった書籍を含め,分野に関わらず様々なインプットを継続的に行なっているのは,良質なアウトプットを続けるためです(単純に読書が好き,という面もありますが).また,授業に関しても,コアな部分は一緒ですが,伝え方や説明の仕方が毎年updateしています(年々,学生さんとは年齢差が離れていきますから,授業の合間に話すネタもupdateしていく必要がありますし・・・).

ここまで散々書いてきて,全く逆のことを書きますが,特に学生の皆さんには是非,特に自分自身に対して理系文系というカテゴライズはしないことをお勧めします.要は,
“理系だから◯ ◯は勉強の必要はない“
という自分の可能性を狭めるような意識は捨ててもらいたいと思っています.
そういう意味ではまさにタイトルの通り,自分を理系(文系)と区別した時点で,自身の可能性を自分で限定してしまうから“アウト“ということです.

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