2021/05/23

論文は1章から書いてはいけない(for beginner)

 何だか,こんな”〇〇は××しなさい”とか,”△△は□□しなさんな”みたいなタイトルの本が多いので,タイトルの感じを真似してみました(笑).


タイトルは多少ふざけましたが,これまた先日の英語の話題と同じく,普段から思っている,と言うか,学生の皆さんに論文(学会・研究会・発表会等での要旨も含む)を書いてもらうたびに助言していることなので,今回,文章にまとめておこうと思いました.

最初に断っておきますが,今回のタイトルはカッコ書きで「for beginner」と書いてある通り,以降の内容はまさに初心者向け,要は,論文や発表要旨を作成した場数がまだ少ない学生さん向けのものとなっています(場数を踏んでいる人なら最初から”書ける”ので書いても良いし,なんなら書きたいところから書けばいいのです・・・が,こと初心者に関してはよろしくない,という話です).

タイトルにインパクトを求めたので(苦笑),タイトルに含まれた情報量は実は少し少なくて,厳密に言うと,
”アブストラクト(あらまし)と第一章/節と最終章/節は,最初に書いてはいけない(というか,書けない)”
が,僕の考えです.

卒業論文や学会発表論文,要旨などには,その冒頭で論文全体の概要を記載するアブストラクト(Abstract)を用意する必要があることが一般的です.それに引き続き,研究の背景や対象領域における課題,自分の研究テーマの意義や目的を記載する第一章(はじめに)があり,その後,提案手法の説明や手法の説明のための準備,手法の妥当性・有効性を評価するための実験の説明等が続き,実験結果や考察に関する記述があった後,論文に記載された研究の取りまとめと今後の課題や方針について述べる最終章(まとめ・結論)が記述されて本編は終了.論文によってはその後に謝辞(協力いただいた関係者・機関等へ感謝を述べる)が挟まって,最後に参考文献,必要に応じて付録(本編に記載するには場所をとるので最後に回した補足説明や数式の証明など)を記載することとなります(論文や本など,100ページ以上のボリュームとなると文章の一まとまりは「章」で区切りますが,数十ページの論文やそれ以下の用紙の場合は「節」で区切るのが普通.章・節・項というのが単位になります).

特に,卒業研究をはじめとする研究活動を始めたばかりの学生がこの手の文章を書くことをイメージした場合,上記の各章 or 節の中で,どこが一番書きやすいと思いますか?
個人的には,恐らくほとんどの学生が一番先に取り組むであろう,自身の提案したい/開発したい手法やシステム,機械装置などに関する説明であったり,既にそれらが完成しているのであれば,これまたまさに自身が実施(しようと)している実験設定や結果・考察に関する記述ではないかと思います.これらはまさに,自分自身がリアルタイムで取り組んでいたり,実施した直後であったりするので書きやすいですし,むしろしっかりと覚えている間に書くべきです.また,書くことでアイディアの構成や実験設定の”抜け”に気がつき,早めに手法や実験設定の修正も可能になる,というメリットもあります(これはまた別のエントリとして書きたいですが,アウトプットはある意味,自分にとっての最良のインプット/フィードバックとなるので,書いてみるということはその意味でも重要です).

要は,論文の章立てでいうところの”中盤部分が一番書きやすい”(書こうと思えばすぐにでも手がつけられる)部分となるわけですが,ここまでは良いでしょうか?これはこれとして,ではなぜ,アブストラクトや一章,最終章は書きづらい/書いてはいけないのでしょうか?
まず,一番わかりやすいのはアブストラクトです.アブストはその名の通り,論文の概要(あらまし)です.論文の全体的な内容を,特に最も重要な,”読者が知りたいであろう内容”に絞り込んで要約したものがアブストです(アブストラクトは,論文によってはサマリー=summaryとも言います).
考えてみてください.研究を始めて間もない,ヘタをするとシステム開発も完了していなかったり,実験結果もまだ得られていないような状況で,研究全体の要約を書けると思いますか?
アブストラクトやサマリーは論文の冒頭で,あまり多くのボリュームを取らずに,簡潔にまとめるべき文章です.学生の皆さんは長文を書く(書かされる?)ことを嫌がったり心配する傾向があるように思いますが,むしろ,大事なことを(余計な部分を削り取って)簡潔にまとめれる能力の方が重要かつ,高い作文能力が求められます.そういった意味でもアブストラクトは第一章と同様,書くのは一番最後とすべきです.

続いて第一章ですが,第一章では
”その研究がどのくらい意義深い=やる必要性や将来性があるか”
について,読者を納得させる必要があります.もっとぶっちゃけていうと,面白そうなことやってるな(続きを読んでみようかな),と思わせることができるかどうかが重要です.
論文タイトルを見て興味を持たない読者はその論文自体を手に取ることはないでしょう.タイトルに惹かれても,アブストや一章を読んで面白くないと判断したら,それ以降を読むことはありませんね.”タイトル・アブスト・一章は論文の看板であり顔”です.看板を見て美味しそうな店だな,と思わせないと,人は店の中までは入ってきませんので,そういった意味でも非常に重要な役割を果たすパートです.

自身の研究の意義や重要性を説得力のある(簡潔な)文章で述べる必要があるので,当然関連研究についても押さえておく必要がありますし,自分の研究を完全に理解した上で執筆を始めないと,後からあれも足りないこれも足りない,ということになってくるわけです.
結果,最初にあるからと一章から手をつけても,一向に書き終わらず,そうこうしているうちに一章も書き終わらないうちに締切が来てしまうのですが,正確にはそうではなく,本来最後に取り組むべき文章に最初からチャレンジしているという順番自体に致命的な問題があります.
同様に,最終章もその研究全体をよく理解していないと書けませんし,そもそも一章と最終章はほぼ,記述内容が同一です.強いていうなら一章では,「これから○○について検証する」,とか,「こういった目的で実験を行う」,というように,現在形・未来形での表現が多く,最終章ではそれらが「○○について検証した.(その結果・・・)」,「実験を行った」のように過去形・完了形に変わるという程度です.一章では未来形であったのに対し,最終章では完了しているので,その結果や,結果を踏まえた今後の課題・方針に関する記述が付加される程度で,書くべき情報や書くために必要な準備はかなりの部分で重なります.

ある意味,初心者限定です,と冒頭で断ったのは,初心者と場数を踏んだ学生や教員では,文章力の差はもちろんのこと,それ以前の問題として自身の従事する研究そのものに対する知識や経験が少ないので,一章やアブストを書きたくても,書くためのコンテンツを持ち合わせていないのですから,書けなくて当然とさえ言えます.
ただし,そろそろ卒研を取りまとめますよ,というタイミングになっても書けないとなってくると,それはそこまでの時間を何に使っていたの?ということにもなってくるので注意が必要です.例えば4月から研究を始め,教員や先輩のアドバイスを聞きながら準備を進めつつ,自身の研究の意義や将来性,他の研究との違いを明らかにするために文献を調査し,手法を考え実験を実施し,結果が出て取りまとめて,評価・考察をしていくうちに,一章や最終章を書くための情報が溜まってくるハズですので,”その頃には”少なくとも当該の章を書くためのコンテンツは揃ってきているハズですね(あとは文章力の問題です).

何度か要旨を書いたり,学会などで発表したりしている学生であれば,自身の研究に対するベーシックな知識や他の研究との類似点・相違点,現在の自身の研究の完成度などについても把握できているでしょうから,正直に第一章から書き始めるという選択肢もできるでしょうし,状況に応じてそれ以外の章から書いていくことも可能かと思います.
文章力についても,最初はかなり苦労するでしょうから,文章を書き始める必要がある時は修正の時間を大量に用意できるよう,可能な限り早く書き始めることが重要です.しかしながらその一方で,ある程度のレベルまでは,繰り返し訓練することでほとんどの人は確実にたどり着けます.発表スキル等と同様,やればやるほど向上しますし,どんな人でも向上できるレベルの上限にまで到達すれば,世の中でも”文章が/発表が上手い人”と一般的に認識されるレベルにまで到達できると思っています(この意味で,「自分には文章/プレゼンの才能がない」と言っている人は,プロの小説家や俳人,インフルエンサーでも目指しているのであれば別ですが,いわゆる技術文書を書いたり,学会発表をしたりすることに関して言っているのであれば,単に”練習不足”なだけだと断言できます.怠けずに練習してください).

ただ,そうは言っても世の中では意外と「一章(アブスト)から書いてね」などと言われることが多かったりもします.そのような,否応無く対応せざるを得ない状況に遭遇した時,極力避けたいところではあるものの避けられない場合は,文字通り必要最低限の当たり障りのない文章を作成し,真面目に作文に取り組むのは,順番として最後の方に回すのがやはり結果としてベターだと考えます. 

0 件のコメント:

コメントを投稿

@dkitakosi からのツイート