2023/03/01

ジブリアニメで哲学する ーある種,哲学が身近にー

 ここ最近は情報のインプットアウトプットに関する書籍の感想が多かったですが,現在同様に,哲学・心理学系の書籍も意図的に読んでいます.今回紹介するのはそのうちの一冊で,率直にいって”ジャケ買い”というか,タイトルに興味を持って読んでみたものです.

ジブリアニメで哲学する 世界の見方が変わるヒント 小川仁志 著,PHP研究所

いわゆる哲学ってそもそも何?という話ですが,実は僕もよく分かっていませんでした(苦笑)ので,ちょっと調べてみたところ,辞典などでは

”世界や(世界で起こる)物事,人間の生き方(人生)の基本的・根本的な原理(仕組み・大本)を探求する学問”

といった意味合いのようで,個人的には,人がこの世で生きていくにあたって重要な(有用な)ものの考え方・捉え方,といった認識でいます.それこそ,学校で習う哲学というと,かなり昔の哲学者(プラトン,ソクラテスやらアリストテレス)が対象になることが多いので,良くも悪くも(?)”堅苦しさ”が前面に出てくる印象がありますが,そんな哲学の対象をジブリアニメにしたことで,哲学がどんなものかはおいておき,書籍の性質的には一気に身近になったように思いました(それが,僕がこの本を読んでみようと思った要因でもあります).


本書の中で著者は,ジブリの代表的なアニメ(映画)ほぼ全作を対象に,個々の映画における特徴的なキャラクターや設定,映画のテーマや,作中で印象的に登場する小道具的なものについて,これらはどのような意味で用いられているのか,論じていきます.
例えば,「となりのトトロ」に登場する”ネコバス”は,作中では文字通りネコなんだけれどバス,という,字面だけ見れば怪物(とはいえ作中ではかなり可愛いキャラクター)であるものの,この作品に登場する”バス”は,当該作品においてどのような意味を持っているのか,著者なりの視点で記述されています.
同様に,「魔女の宅急便」における”魔女”であったり,「紅の豚」においてタイトルにもなり,作中でもたくさん登場する”赤”という色にはどのような意味があるのか,などなど,様々な作品における多様なコンテンツについて”哲学して”いきます.

哲学,という言葉を使うと一気に高尚なイメージが出て来ますが,我々も映画に限らず,音楽(歌詞やメロディ)だったり小説だったりでも,

”この歌詞はそのまま受け取れば字面通りだけれども,作者はこのような「別な意味」をこの歌詞に暗黙的に込めているのではなかろうか”

といった”深読み”をして楽しむことがあるかと思います.そしてだいたいその場合,字面自体はありふれた普通のものであったとしても,その裏には,人間愛であったり,人生の真理のような,より大きな意味 and/or 作者の思いが込められていると考えることが多いように思います.

本書で行っている哲学はまさにこれで,そう考えると実は我々も普段から無意識に,自分にとって身近なものを使って”哲学していた”のかもしれません.
ある面でこれが楽しかったりもするわけですが,この深読みの結果は当然,人によって異なる場合が多く,それぞれの”読み方”どちらが正しい(or 作者の本当に考えていることと近い)かを議論したりすることがあるかと思いますが,著者も本書で,一通り自身の考えを記述した後,「ある一つの答え」という表現で,著者の考える結論(その対象はこういった意味合いで登場しているのでは?)を述べます.

僕が読んでいても実際,これは自分とは違う見方だな,と思うものもあれば,非常に自分と近い考えだと感じる部分もありました.上述の通り,人が10人いれば考え方が10通りあると考えるのが当然であるものの,意外とその当たり前のことを忘れてしまい,自分と違う考えについては否定的になってしまうことが多いように思います.ただ,本書を読んでいると,(対象がジブリアニメだからなのかもしれませんが)
「そういう見方もあるのか.それはそれで面白いな」
とか
「自分と同じ考え方でこの作品を捉えていた人が他にもいたのか」
といったように,”考え方や捉え方の違いを楽しむのと同時に,自分と他者との考え方に共通点があることも楽しむ”ことが自然にできます.

著者はあとがきで,「何度でも書きたい本」というタイトルで,同じ本を何度でも書けそう,しかも,毎回違うことが書けそう,と述べていますが,これは全く同感です.
実体験として,少年時代から好きなアーティストのCDを何度も聴き直すことがありますが,購入当初に買った時に聴いた後の感じ方と,5年後,10年後に聴いた時の感じ方が違うことは,まさに実感していますし,ほぼ同様のタイミングで聴いても,その時の自分の心持ちによって全く異なる印象で響いてくるということも少なくないように思います.映画にせよ音楽にせよ小説にせよ,対象は変わっていないのに”自分が変わることで捉え方が変わる”というのは,それらの作品をもとに”自分を定点観測”しているような,非常に面白い感覚ですよね.

そういう意味では,例えば今回対象になっているジブリアニメのような,(自分を含め)多くの人にとって身近な作品や,自分が大好きな作品を,何年かごとに見直してみると,作品中に新たな発見があったり,昔は感じられなかった新たな感情が生まれることで,自分の変化や成長に気づくことができるのかもしれません.

冒頭に記載した哲学の定義に,人生の原理を探求するというものがありましたが,なんらかの不変な対象を鏡として自分を見直すことで,自分のものの見方や考え方(の変化・成長)を観測することが,まさに人生の原理の探求にも相当するのかな?と感じたことが,本書を読んでの一番の収穫でした.

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